1948年。17歳のレイ・チャールズ・ロビンソン(ジェイミー・フォックス)は、南部からバスでシアトルへと向っていた。当時、黒人はバスの座席が隔離され、停留所の売店もトイレも白人とは別だった。
レイはジョージア州で生まれた。体の弱い母アレサ(シャロン・ウォレン)は洗濯女をしながらレイと弟のジョージを育てていた。二人は仲のいい兄弟だった。しかしある日、ジョージが大きな洗濯桶に落ちて溺死する。驚きのあまりこれを呆然と見ていたレイにとって、弟の死は生涯のトラウマになった。レイが視力を失ったのはそれから9ヵ月後のことだった。しかし、気丈な母はレイに「誰にも盲目だなんて言わせないで」と言い続けた。
シアトルに着いたレイは間もなく才能を認められ、ステージ、ツアーと大忙し。初めて出したレコードもチャート入りした。しかし、クラブの女マネージャーたちが世慣れぬ自分を利用して荒稼ぎしていることに気づいたレイは町を出ることにする。
1950年。盲目の天才と呼ばれるようになった彼は、L・ファルソン・バンドの一員としてツアーを行った。身の回りの世話をしてくれたツアー・マネージャーのジェフ(クリフトン・パウエル)と、仲間のミュージシャン、ファットヘッドはレイが心を許す親友になった。しかし、彼が麻薬を覚えたのもこの頃だった。時おり、トラウマから"水"の幻覚を見ることもあった。何か辛いことがあると、いつも思い出すのは母の言葉だった。
母はレイを決して甘やかさなかった。「盲目でもバカじゃない。施しは受けるな。自分の足で立て」。涙を隠して厳しく教育した母のおかげで、レイは"耳で見る"ことを学んだ。彼の心の中にはいつも母がいた――
■レイ・チャールズ
ミュージック・シーンで多くの人々に多大なる影響を与えて来たのがレイ・チャールズ。魂を歌に込め、ピアノの前に向かい、心と心が触れ合う音楽を届けて来た唯一無二のアーティストだ。ソウルの神様と呼ばれた彼も、多くの苦難を乗り越え頂点に立った。
そんな彼の生涯を描いた作品が『Ray/レイ』。この作品の監督を務めたのが、アカデミー賞5部門にノミネートされた『愛と青春の旅立ち』を手掛けたテイラー・ハックフォード。「天才の複雑さや欠点を隠すことなく、すべてを見せたかった」と語っていた程に、この映画を製作するにあたり、実に15年もの歳月をかけ、レイ・チャールズとの親交を深めてきた。その映画の重要人物、レイ・チャールズ役に抜擢されたのが、『コラテラル』での好演が記憶に新しいジェイミー・フォックスだ。レイ・チャールズとジェイミー・フォックスは実際に一度セッションを行い、その時にレイ自身が認めた逸材だ。独特なる雰囲気から細かな部分まで、まるでレイ・チャールズが降臨したかの様に思える演技には思わず鳥肌が起ち、彼の動作全てに全く違和感を感じる事なく映画にのめり込んでしまう。
レイ・チャールズの楽曲を40タイトル使用し、見事に音楽とストーリーをシンクロさせた『Ray/レイ』。心に沁みるソウルフルな歌声は勿論、彼がピアノに向かって歌っている時のあの柔らかな微笑みまでもが、今、ここで、ジェイミーの好演により蘇える・・・。
この映画を誰よりも楽しみにして居たのはレイ・チャールズ本人である。が、惜しくも2004年6月10日、映画の完成を待たずして他界してしまった――。この作品には実に多くの愛が詰まっている。涙も感動も全てがレイ・チャールズの愛と魂で包まれている。音楽ファン、そして映画ファンのみならず、多くの人々にお薦めしたい一作だ。
(文:磯山みゆき)
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